【この資料は2006年度のものです。→ 2005年】
〔解説〕 平成18年8月25日に,鹿児島県短期大学の教育を語る会・県高等学校進路指導研究協議会が主催(県教育委員会・県高等学校長協会・県内5短大が共催)で,シンポジウム「鹿児島県短期大学の教育」を開催しました。午前中には各短大生によるプレゼンテーションが行われましたが,以下の文章は,県立短期大学文学科2年の原田真奈さんによる県立短大での学生生活についての発言を文字化したものです。 原田さんの県立短大での学生生活を活写しており,高校生の皆さんにもぜひ読んでいただき,県立短大への進学を考えるうえでの参考にしていただきたいので,ここに掲載します。 鹿児島県立短期大学学生部
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幼いころから一貫した将来の夢を持ち,それを実際に実現することができるという人というのはそう多くは存在しません。私もそうできなかった1人です。
私は,幼いころからあらゆる職業に憧れては,あれになりたい,これになりたいと,将来自分が本当にしたいことというものを見極められないまま高校に進学してしまいました。幸か不幸か,私が進学した高校は普通科だったため,専門的な授業も受けることなく極々一般的な高校の勉学をしていれば毎日をやり過ごすことができる,それが私の高校生活でした。しかしそんな「普通」の高校生活の中でも私は3年間書道部に在籍し,指導してくださった顧問の先生や環境にも恵まれたことで,書道の楽しさを知ることが出来,またそれ以上に,結果が多くついてきたことは,私の進学先や職業観に大きく影響を与えました。そして具体的な進学先や将来就きたい職業の決定を目前に控えた高校2年生の夏,私は「高校の書道の教員になる」ことを決めたのです。私はこのとき,自分にとって初めて現実的に目指す,そして描くことのできた夢の実現に向けてその当時出来る精一杯の努力でもって受験勉強に励んでいました。しかし今になって振り返ってみると,あの時の私にはやはり足りないものがあったように思います。結果,私はその時持っていた「高校の書道の教員になる」という夢を実現できる大学への受験に失敗してしまったのです。しばらくは何も手につかず,何も考えられない,もちろんこれまで私の全てといっても過言ではなかった書道に関する一切のものに触れること,見ることすらできなくなる程のショックを受けました。大げさと言われるかもしれませんが,それぐらい高校時代の私にとっては「書道が自分のすべて」だったのです。しかし,神様はそんな私にしっかりと次なるものを用意してくれていました。この今までに経験したことのないような落胆の日々から私を救うものを用意してくれていたのです。それが「英語」でした。
第一希望の大学から不合格通知が私のもとへと届いてからすぐのある日,あまりに落胆する私を見かねた母が突然「2人でシンガポールに行こう」と言い出したのです。私もこのまま悲嘆にくれてばかりはいられない,この今の自分の状況をどうにかして変えなければ,という半ば勢い任せの二つ返事で行くことを決意しました。しかし,この母とのシンガポール旅行が私のこれからを大きく変えたのです。
元々私は英語が好きで,尚かつ音楽も大好きだったので,中学時代,高校時代,ふだんから洋楽を良く聴き,英語と音楽はいつも私のすぐ側にありました。更に,私は海外に行くことは初めてではなかったので,さほど今回の旅行に対して大きな期待を寄せるようなこともなかったのです。しかしこの旅では,改めて「英語」という共通言語を用いてあらゆる外国の人々と話をすることができる,繋がることができるということに対する興味関心が高まり,更には英語の楽しさ,面白さに気づくことができました。そこで私は,本来進学を考えていた大学の不合格通知が届く以前に,県立短大の英語英文学専攻の合格通知が届いていたので,帰国後真っ先に県立短大への入学を決めました。
しかし入学当初は,短期大学というシステムについても県立短大のことも詳しく知らないまま入学してしまい,本当にこの学校で良かったのだろうか,という不安に駆られたことも正直ありました。けれども,自分が想像していた以上に充実した内容の授業や,先生方の学生に対する懇切丁寧な対応,規模の小さな大学であるが故の学生同士の強い繋がりなど,県立短大に入学してよかったということは数え切れないほどあります。そこで今日は,私の充実した短大生活の中から3つほど,紹介したいと思います。
まず1つめは,高校とは全く違う大学での授業内容です。授業といっても大学では大きく講義・演習・実習の3つに分けられます。各科,専攻によっても大きく違うかとは思いますが,私が在籍している文学科英語英文学専攻においては,講義科目では,ヨーロッパ事情という講義でヨーロッパの宗教,政治の歴史を高校の世界史以上に詳しく学ぶことができます。また演習科目では,英語学演習・英米文学演習では各ゼミに分かれ,それぞれの先生の研究室で自分の興味関心のある事柄について学べたり,ゼミの仲間たちと意見を交わしたりすることができ,オーラルコミュニケーションでは,ネイティブの先生との対話を中心に授業が進められ,この対話を繰り返すことで私たちの英語でのコミュニケーションのスキルアップを図っています。実習科目では,教職課程を履修している場合,2年生の前期に,3週間にも及ぶ母校での教育実習を体験することができます。教育実習に行くまでに,教育行政論・生徒指導論・教職演習など教職の授業を受け,実習のアドバイスはもちろんのこと,精神的な部分においても先生方がしっかりサポートしてくださったので,私は3週間の教育実習を本当に有意義で実りのあるものにすることができました。「あなたたちは実習生だけど,学校の敷地内に入って教壇に立ってしまえば,生徒たちからすれば私たち教師と何ら変わらない。だからこの3週間は教師になりきりなさい。」と言われて始まった教育実習。任された授業の準備に深夜までかかることもありましたが,私は睡眠時間が削られることよりも,睡眠時間を削って準備していった授業を生徒たちが目を輝かせて受けてくれるという喜びの方が勝っていたので,3週間の間辛いと思ったことは一度もありませんでした。これは嘘ではありません。限られた時間の中で,私が生徒たちに学習し,自分ものとして欲しいと考えていた内容を,しっかり生徒たちが身につけていると確認できたときの喜び,これは今までに感じたことのないほど印象的な感情でした。
ここまで教育実習について熱く語っていることからも分かるように,今回の実習を通して私は「教師」という職業の魅力や奥深さに取り付かれてしまいました。実習までは「教師」という職業が体験できるという期待よりも,不安ばかりが募っていました。しかし,実習を終えるころには人にものを教えるということに対する楽しさや,生徒たちと関わることで得られる喜びから「絶対教員になる」という決心が固まるまでになっていました。短大で教職を取るということは考えている以上に大変なことばかりですが,実習までの苦労を仲間と乗り越えて実習を迎え,やり遂げたときの達成感や充実感は,経験した人にしかわからないとても素晴らしいものです。また短大であるということから,県立短大で教職を履修している人のほとんどが十代のうちに教育実習を経験することができます。つまり,より実習先の生徒たちとの年齢が近く,生徒が自身の兄や姉のような感覚を私たち実習生に覚えてくれるため,生徒との距離も一気に縮み,授業中のやり取りもとてもスムーズなものになります。これは短大生の特権といってもいいでしょう。たった3週間と思われる方もいらっしゃるでしょうが,この3週間は実際に流動する社会の中に身を投じることで,自分の考えの甘さを実感することはもちろんのこと,自分の職業観までも考えさせられるとても内容の濃い3週間でした。
2つめは,高校では出来ない様々な体験です。これは,社会活動・企業研修・海外研修(異文化体験・異文化コミュニケーション)という3つに分けられます。
社会活動は,「鹿児島100km徒歩の旅」や「ウォーターフロントフェスティバル」のボランティアスタッフなどで,企画段階から運営までを体験するものです。
企業研修は,インターンシップ受け入れ企業のリストの中から,自分が興味のある会社を選択し,実際に企業の中で働くというもので,社会に出る前の学生の時期においてとても貴重な体験をすることができます。私は,昔から文章を書くことが好きで,マスコミ関係の仕事に興味があったので,昨年の夏,南日本新聞社で企業研修をさせていただきました。短期間の研修とはいえ,実際に企業の中に入り,礼儀作法を含め社会人としてどうあるべきかということを肌で感じ,貴重な体験をすることができました。
海外研修は,異文化体験,異文化コミュニケーションという授業科目で,夏季休暇中に約2週間,ハワイ,インドネシア,中国に行き,現地の大学で授業を受けたり現地の文化を学んだりするものです。私も昨年ハワイへ行きましたが,2週間充実した日々を送り,とても素晴らしい体験をすることができました。現地の大学の先生方による英語の指導に加えて,ハワイ文化の一つとしてプロの方にフラダンスを教えていただき,旅行や観光では体験できないような内容の濃いものでした。また研修中は洗濯や夕食は全部自分たちでこなさなくてはならないのですが,洗濯機の置いてあるランドリーフロアーには宿泊しているあらゆる国の方たちが集まってくるので,私は毎日ここで小さな国際交流を楽しんでいました。学校以外でも真の日常会話を多く学ぶことができた2週間でした。
3つめは自治会活動についてです。現在,私は自治会役員の総務・副部長として活動しています。様々な学校行事に関わることができてとても光栄なのですが,中学校や高校の生徒会とは違い,一切を学生自身の責任で運営していかなければならないため,大変なことも多いです。しかし,自治会役員が一致団結して一つの行事を無事に終えたときの達成感は,何物にも代え難い喜びです。
県立短大に入学当初は,様々な思いがありました。受験に失敗してしまったこと,ここに入学することは自分にとって逃避になってはいないのだろうかということなどなど,不安だらけのスタートでした。高校3年時には,まさか自分が今のような生活をしていることは想像もつきませんでしたが,今の生活にも県立短大に入学したことにも,全く後悔はありません。冒頭でも述べたように,幼い頃から何か1つのものに向かってひたすら努力し,それを実現し成功させるという人生を送る人もいるでしょう。しかし,私はこの2年間で,新たな夢,一生続けたいと思う「中学校の英語教員」という職業を見つけることができました。また,短い期間の中でいろいろな経験を積み重ねたことで,人間的にも大きく成長できたと思います。
短大は確かに忙しいです。私も教職課程を履修していることもあり,1年次には毎日1限から5限までほとんど詰まっているという,まるで高校時代と変わらないような時間割でした。しかし,私は,忙しさから来る辛さや苦労以上に,多くのことを学ぶことができる充実感でいっぱいでした。2年間という短期間だからこそ,凝縮した授業内容で集中して勉学に励むこともできるのだと思います。
「ここは1年の前期が四年制大学の1年生,後期が2年生,2年の前期が3年生,後期が4年生だ」
入学当初,先生方がこうおっしゃっていましたが,忙しさや内容の充実度から言っても本当にそのとおりだと思います。その忙しさの中でプラスアルファ何が出来るのかということも,とても重要だと思います。私は海外に行って,自分の国について知識が無さ過ぎるということと,自分の国のことをうまく相手に説明することができないという2つのことを痛感し,「観光英語検定試験」の勉強を始めました。残り少ない短大生活を,これからももっともっと幅広く有効に過ごしていけるように努力していきたいと思います。
また,こうしたとても充実した短大生活を県立短大に入学した全ての人に味わってほしいと思います。
本日は御静聴いただきありがとうございました。