学長あいさつ
皆さんは、「育自」という言葉を耳にしたことがありますか?乳幼児を世話したり養育したりする「育児」ではありません。「育自」とは文字通り、「自分を育てる」という意味です。県立短期大学での学びでは、自ら授業科目を選んで時間割をつくり、自ら課題を見つけて調べたり、友達と意見を交換するなどして解決策を考えていくことが求められます。そのような主体的な学びを通して、県立短期大学における「育自」、すなわち自分を育てることができるのです。
自分を育てることについて、まず、頭に浮かぶのは、何かを成し遂げることのできる力を意味する「能力」かもしれません。自分の「能力」を育てていくには、まず、「マインドセット(考え方や物の見方)」が大事になります。マインドセットには、自分の能力は生まれつきのもので変わらないと考える「フィックス・マインドセット(固定的思考態度)」と、自分の能力は経験や努力によって伸ばすことができると考える「グロース・マインドセット(成長的思考態度)」とがあります。
二つのマインドセットが大学生の学びに及ぼす影響を検討した武藤浩子 博士によると、グロース・マインドセットを持つ学生は、授業を「学生自身が考えることで学んでいく場」ととらえ、授業で考えることを学ぶようになり、授業で自発的に質問し、成績もよかったそうです。このことから、自分で自分を育てるための初めの一歩は、「グロース・マインドセット」を身につけること、つまり、自分の能力は経験や努力によって伸ばすことができると考えるようにすることです。
自分で育てる能力は、『認知能力』と『非認知能力』の二つに大別することができます。まず、『認知能力』とは、IQ(知能指数)や学力テストで測れるような知能のことを指します。ハワード・ガードナー教授は、人間が生まれながらに持っている知能は一つではなく複数あるととらえ、知能を8つに分類しました。それらは、①言語的知能、②論理・数学的知能、③視覚・空間的知能、④身体運動的知能、⑤音楽的知能、⑥対人的知能、⑦内省的知能(自分自身を理解する能力)、⑧博物的知能(多様な物事を分類し関連づける能力)であり、そのような多元的な知能が、複合的に働き、補い合うという多重知能理論を提唱しています。
この理論は、人は誰でも複数の知能を持ち、それら全てを使いながら生活しており、どの知能が優れているかが、その人の個性につながるというものです。そして、人の可能性を伸ばすためには、適切な環境を与え、それぞれの知能だけでなく、複数の知能を組み合わせることを意識して育てていく必要があることを示したものです。皆さんが、県立短期大学で自分の得意な知能を伸ばすとともに、他の知能との組み合わせにより、いろいろな知能を育んでいかれることを期待します。なお、身体運動的知能(体全体や身体部位を使う能力)を育てる身体活動により、脳の神経細胞の新生や成長だけでなく認知機能の向上にも効果をもたらす物質が分泌されますので、日常生活で意識して身体を動かすことを心がけるとよいでしょう。
もう一つの能力である『非認知能力』とは、「意欲がある」、「忍耐力がある」などの気質や性格的特徴のことを指します。こちらも、自分で育てることのできる能力です。この能力が高いと、学力が向上するばかりでなく、仕事での成功や収入などにも影響をもたらすという報告もあることから、不確実性の増す現代における「生きる力」として注目されています。なかでも、「やり抜く力」と「自制心」を伸ばすことにより、学力も高まると報告されています。特に、「やり抜く力」については、目標に向かって、継続して取り組むことで伸ばすことが可能なため、人は成長するという「グロース・マインドセット」で、物事に取り組むことが有効です。
最後に、自分を育てていく上で大切なことがあります。それは、成長の度合いについては、他の人と比較するのではなく、これまでの自分と比較することです。80歳を過ぎてスマートフォンのゲームアプリを開発した高齢者や、90歳を過ぎて書き始めた詩集が100万部を超えるベストセラーとなった高齢者の存在は、人が生涯にわたって育つことを私達に教えてくれるものです。
楽しみながら自分を育てていく「育自」こそが、夢をかなえる一歩になります。焦らず、他の人と比較せずに、小さなことをコツコツと積み上げていってください。本学での学びやキャンパスライフを通して、皆さんの新たな未来が拓けることを、教職員一同願っています。